効果的な勉強法の1つに「先取り学習」があります。

ところが、正しい意味で「先取り学習」のできているケースは、あまり多くはありません

いろいろと誤解の多い「先取り学習」について、ここではメリットやデメリットと共に見ていきましょう。

先取り学習は大きく分けて2つある

まず押さえておきたいのが、先取り学習は大きく分けて2種類あることです。

ここは、ごちゃごちゃにしてしまっている人も多いところですから注意してください。

(1) 学校よりも少しだけ「先取り」する学習

学校の進度よりも少しだけ先のところを、先取りして勉強する方式ですね。

これは、やり方次第ではかなり効果の高い勉強法の1つですし、中学生向けの多くの進学塾がしているのも、このタイプです。

 

ただ、これは本来の「先取り学習」とは少し違って、要するに「予習」です。

実際に、いわゆる「予習型の塾」は、学校の進度と離れすぎないように付かず離れずを保って、おおよそ1週間から2ヶ月くらい先の内容を、先回りして扱うようにしています。

そのため、これは「予習と復習のどちらが良いか?」といった話にもつながってきますが・・・せっかくですから、メリットとデメリット(弊害)を軽く押さえておきましょう。

メリット

  • 学校の授業についていきやすくなる。
  • 内容が分かっているため、挙手発言などを通じて授業で活躍しやすくなる。
  • 学校の授業が復習になって、記憶に残りやすくなる。
  • 学校の先生が偏った教え方をする人だった場合、それが修正される部分もある。

デメリット・弊害(自分で予習する場合)

  • 自力で予習しただけでは、内容をちゃんと理解できない生徒のほうが圧倒的に多い。
  • 先に理解した内容が間違っていると、そこにかけた時間の多くが無駄になる。
  • 自分が理解した方法と、学校の先生の教え方が違うと、混乱してしまう場合がある。
  • 予習の「やり方」が分かっていない生徒には、そこから教える必要がある。
  • 予習のための教材やツールなどを用意してやる必要がある。

 

もしも生徒が自力で完璧に学習できるなら、もはや学校の授業はいらないわけで、予習の段階ではそこまで求められていません。

そうすると、予習はあくまでも「授業で習う前のワンクッション」となるわけですが、それならそれで「どこまで勉強すれば良いのか?」が、多くの生徒には分かりません

また、勉強の得意な生徒は、学校の授業だけでちゃんと理解できますから、本当に予習が必要なのは、勉強の苦手な生徒となるわけですが、そういった生徒が自力で予習できるだけの技能とやる気を持っていることは少ないです。

結局、やらなくても大丈夫な生徒がさらに成績を上げ、やっておきたい生徒ほどやりたくてもできないのが「自分で予習する」という勉強法であることは、注意が必要なところです。

 

デメリット・弊害(塾で予習する場合)

  • 塾の授業が分かりにくくてつまらないと、予習にならないだけでなく、余計な苦手意識を持たせることにもなる。
  • 塾の授業が分かりやすくて面白いほど、学校の授業がつまらなく感じたり、そのせいで授業態度が悪くなったりする。
  • 塾の宿題が多くなりがちで、生徒の家庭学習の負担が増したり、それを管理する親の負担が増したりすることもある。
  • 塾で偏った教え方をされてしまうと、学校の授業が頭に入りにくくなり、時には先生に反発するようなこともある。
  • 英数国のような積み上げ型の教科は、1度つまずくと、そこから先が全て無駄になりやすい。

 

このように、生徒によって合う合わないが大きく、合わない生徒にはかなり効果が薄くなりやすいです。

さらに「やらないよりはやったほうがまし」なら良いのですが、「やらないほうがまし」「やったほうが前より悪くなる」こともあるのが、何とも悩ましいところです。

 

この中で気をつけたいのは、塾の授業が分かりやすくて面白いせいで、学校の授業がつまらなく退屈に感じ、授業をしっかりと聞かなくなったり、授業態度が悪くなったりするパターンです。

せっかく塾で学んでも、学校の授業をいい加減に受ければ、学んだ回数は「1回」で元通りですから、復習の効果はほとんどなくなってしまいますよね。

さらに授業態度まで悪くなれば、先生からの印象や通知表にまで悪影響で、予習によるプラスの影響など軽く吹き飛んでしまいます

中には、学校の授業を妨害するようなタイプの先取り授業をしておいて、生徒が学校の指導に不満を持つと「学校の指導レベルが低いのが悪い」などと非難し、「だから塾が必要だ」と自己宣伝するような低質な塾もあるだけに注意が必要です。

塾の授業は塾の授業で、分かりやすく楽しい授業でしっかりと学び、同じく学校は学校でしっかりと学ぶのが理想的に決まっているのですから、そうなるような指導をできるかどうかといったあたりが、塾の先生の側にも問われていると言えるでしょう。

 

そして、もう1つ特に気をつけたいのが、塾が「まずい教え方」しかできない場合です。

 

いくら予習と言っても、先生の授業が下手で分かりにくいと、予習の段階で生徒は「分からない」状態になってしまいます。

そうなると、さらに宿題やらテストやらでわざわざ苦手意識を「先取り」で植え付け、学校の授業も聞く気をなくさせるというパターンにもなりやすいです。

高いお金を払って、全く予習にすらならない無駄な時間を過ごさせるだけでも罪なのに、塾で習ったせいで「普通に学校で習っていればそこまで嫌いにならなかったのに・・・」となることもあります。

 

また、生徒を「分かった気にさせる」指導だけが上手で、本当の指導力を持っていないという、大手塾によくいるタイプの先生の指導にも注意が必要です。

こういった先生に教わると、何となく分かった気にさせられてしまい、「実際はできないのに、できるような気がする」という状態になりがちです。

先取りで教える場合、生徒は誰からも習っていないまっさらな状態で学ぶことになりますから、よほど下手な先生でない限りは「分かった」「簡単だ!」と思わせることができます。

ところが、実際にやらせてみると分かりますが、「分かった!」「簡単!」と言いながら間違える生徒はたくさんいます(笑)

こういう「分かったつもり」が学習では一番危険で、そのままではテストも当然できないですし、だからと言って、本人はできているつもりですから、復習や見直しもしません。

 

もともと勉強は前の内容の上に積み重ねていくものですが、分かったつもりの生徒は中途半端な理解の上に積み重ねようとしたがるため、そこから先の内容も中途半端になってしまいます

そうして結局何もかもが中途半端なせいで頭の中がぐちゃぐちゃになり、最悪の場合好きだったはずのその教科が嫌いにまでなってしまいます。

また、先取りしている生徒は、困ったことに「一見するとできる生徒」に見えてしまい、すぐにはボロが出にくく、先の内容がどんどん難しくなってきた頃に、ようやく表面化します。

見た目が健康そうな人ほど病気の発見が遅れ、気づいた時には手の施しようがない・・・という状態に似ていますね。

中途半端にできるがゆえに、こうした積み残しや理解不足が発見しづらくなるのは大きなデメリットの1つです。

 

○ 参考:予習と復習のどちらが良いかはこちら。

予習と復習のどちらを選ぶべき?

 

(2) 学校の進度を無視して「先取り」する学習

本来の「先取り学習」と呼ばれるものは、予習よりももっと先を学ぶものです。

例えば、中学校の生徒に高校で習う内容を教えてしまうように、1年、2年、3年・・・先の内容を教えるものですね。

有名なのは公文式で、小学生の生徒でも、高校で習う微分積分の単元を学習しているようなこともあります。

 

それでは、こちらについてもメリットとデメリット(弊害)を押さえていきましょう。

メリット

  • 今の内容を簡単に感じるようになる。
  • 良い点数がとれたり、他の生徒よりもできるという優越感を感じたり、先生や周囲が褒めてくれたりすることで、自信につながる。
  • 先取りしてから、学校で実際に学ぶまでの期間に、じっくりと習熟することができる。
  • 興味があることを、好きなだけ突き詰められる。

 

中学校で数学が苦手な生徒でも、小学校1年生の教科書やドリルを見せると「簡単すぎる!」と感じます。

私たち大人の立場でも、小中学校で習う勉強内容は、わりと簡単なように感じてしまう人は少なくないはずです。

これらはどちらも「全く同じことを昔習っている」のですから、簡単に感じるのも当たり前ですよね(笑)

それと同じ状況をわざと作り出すことで、ポジティブな感覚を与えることができるというわけです。

 

もちろん、そんなことを考えなくても、単純に生徒が好きなことをどんどん学び進めていくのは、それだけでも意義のあることです。

さらに、その教科を学ぶ過程で得た知識や技能が、他の教科の学習に良い影響を与えることもあります。

そういう意味でも、「生徒に合わせたやり方でうまく進められる」という条件さえ満たすなら、先取り学習は意義のあるものとなるでしょう。

 

デメリット・弊害(自分で先取りする場合)

  • 先取りも今の内容も、どちらも中途半端になりやすい。
  • 中途半端に先取りすると、分かった気になってしまい、学校で学ぶ時に真剣にならない。
  • 基礎や土台が無いまま、自分の思い込みで先に進むと、砂で作ったお城のように後ですぐに崩れ去る。
  • やり方がまずいと、苦手意識や嫌悪感を先取りしがち。
  • 完全に自力だけだと失敗しやすいため、ある程度の環境づくりが必要となるが、それにはお金や手間がかかる。

 

先取り学習をすると言っても、今習っている学習が、それはそれであるわけですよね。

そのため、学校に入るよりも前に始めるのでない限り、ほぼ必ず「今のことをやりながら、同時並行で先取りをする」という状況になります。

例えば、中学生になって高校内容を先取りするにしても、定期テストになればテスト対策が必要になりますし、たくさんの宿題が出されればそれに時間を振り向ける必要があります。

 

そして、上の予習型の塾でもよくあるケースですが、「今学校で習っている内容も分からないのに、さらに先の内容をやっていると、余計に混乱して何もかも分からなくなる」という状況に陥る生徒がいます。

今の内容と先の内容、少なくとも2つの内容を同時にやるのですから、それだけ生徒には負荷がかかることになります。

それに耐えられない生徒は、どちらも駄目になってしまう場合もあるわけですね。

他にも、本人が先取りしたつもりでも、実際は全く身についていなくて単なる時間の浪費で終わるケースや、まずい先取りをしたせいで、その内容をいち早く嫌いになるケースもあります。

 

また、先取りを好む生徒は、基礎や土台を疎かにしやすい傾向もあるため、そこをほったらかしにして進むと、特に積み上げ型の教科の場合は、後でボロが出てくることが起こりがちです。

しかし、先取りを好むタイプの生徒は、戻ってやり直すようなことは嫌がりますから、積み残しを無視してどんどん先に進めようとするばかりで、いつまで経ってもできるようにはなりません。

このあたりは、どれも上に出てきた予習の話と通じるところですね。

 

そして、決して忘れてはならないのは、これらはいずれも「生徒が自分の意思で先取りする」場合の話だということです。

しかし、現実には「親が子供に先取りをさせる」場合も多く、そこに少しでも「嫌がっているのに、親が言うから従っている」というニュアンスがあるなら、かなりの危険が伴います。

この手の先取りでも、状況とやり方次第ではうまくいく場合もあるため、100%失敗するとは言いませんが、かなり高い確率で失敗することになることには注意したいですね。

 

デメリット・弊害(塾で先取りする場合)

  • バランスの悪い塾だと、今の内容を犠牲にして、先取りを優先させるようなことがある。(またはその逆も)
  • 単純に負荷が増えるため、知らないところで勉強以外の何かが犠牲になることもある。
  • 先取りすることで、必要な能力が育たなくなることがある。
  • 学校の授業がつまらなく感じたり、そのせいで授業態度が悪くなったりする。
  • 分かったつもりになりやすく、基礎や土台が無いままどんどん先に進み、問題の発見が遅れやすい。
  • それなりにお金がかかる

 

塾を利用すると、学習内容ややり方がまずくて中途半端になるというケースは少なくなりますが、代わりに時間配分などの点で中途半端な状態が生まれやすくなります。

例えば、先取り学習のための塾や家庭教師を利用すると、授業以外にも課題や宿題などでそれなりに負荷がかかってくることになります。

一方で、今習っている内容は扱いませんから、学校の宿題なり定期テスト対策なりは、それ以外の時間を使って自分でやらなければなりません。

当然、処理能力の高い生徒でなければ難しく、そうでない大多数の生徒は、どちらも中途半端ということになりやすくなります。

そして、仮に何とか今の内容と先取り内容の両立ができたとしても、代わりに勉強以外の別の何かを犠牲にしてしまうことも少なくありません。

1人の子供が処理できる量も、もともと与えられた時間も限られているため、何かで強すぎる負荷をかければ、他の何かが犠牲になるのは当然なのですね。

 

また、塾がちゃんと指導してくれて、仮に先取り内容をしっかりと理解し身につけることができたとしても、別の落とし穴があります。

それは、先取りしてしまうことで、必要な能力が育たなくなってしまう危険性ですね。

 

例えば、ちょっと大げさな例ですが・・・「7×3+7=7×□」の□を答える問題があります。

このまま□を使った形で聞くと止まる生徒もいますが、もう少し分かりやすく口頭で聞けば、普通に「4」の答えが返ってきます。

ところが、九九を教わったばかりの生徒に聞くと、「しちさん21、7を足して28だから・・・」と、わざわざ遠回りな考えをはじめて、かなり苦戦したり、結局答えられなかったりすることがあります。

要するに、かけ算のもともとの意味である「7の集まりが何個あるか」という発想が抜け落ちて、覚えたばかりの九九をそのまま暗記事項として使うようになってしまう状態ですね。

暗記がいつでも必ず裏目に出るわけでは無いですが、このように先取りの段階で暗記をさせてしまうことで、その後の思考力を奪うケースもあるというわけです。

これを、それっぽい言い方にすると「子供の発達に応じた教育が望ましい」となります。

そして、もともと学校の指導自体がおおよそ子供の発達に応じたカリキュラムになっている以上、そこから大きくずらして教えるのはマイナス面も大きくなりやすいということですね。

 

これら以外にも、学校の授業をつまらないと感じたり、それによって、授業態度がわるくなったりするケースがあります。

また、塾で表面的な先取りをされてしまうと、中途半端ながらも一見するとできるように見えてしまい、積み残しや理解不足といった問題の発見が遅れて、被害が大きくなりがちです。

さらに、本格的に先取りをしようと思うと、教える側にも「下の学年の生徒に上の内容を教える」という専門性が問われることになって、そのぶん料金も高くなりがちです。

そしてもちろん、こちらも上と同じく「生徒が自分の意思で先取りする」場合の話ですから、「親が子供に先取りをさせる」ような形は危険が大きくなってくるため、注意するようにしてくださいね。

 

○ 参考:子供に合わせた勉強法選びはこちら。

絶対に成績の上がる勉強法の見つけ方

 

先取り学習で伸びる生徒、伸びない生徒

先取り学習が向いているのは、以上のデメリットが現れにくい生徒です。

具体的には、軽くなぞっただけでも本質を理解できてしまうような生徒や、急いで先に進めながらも自分でしっかりと穴を埋めていけるよう生徒・・・つまり「もともと頭の良い生徒や、才能のある生徒」ですね。

逆に言えば、そういう生徒でないと、本当の意味での先取り学習を実践するのは難しいだけでなく、いわゆる弊害のほうが目立ってしまうことにもなりやすいのですね。

 

そして、そうでない生徒に教える場合は、教える側の力量が大きく問われます。

ですから、学校の授業を少しだけ予習するタイプの塾に入れるにせよ、本格的に先取り学習をさせる塾に入れるにせよ、生徒の学力が低いほど、塾選び・先生選びが大事になってくると言えます。

このあたりについて、もう少し深く見ていきましょう。

 

先取りしても才能が伸びるわけではない

まず忘れてはならないのは「先取りしても、センスや本質的な能力が伸びるわけではない」ことです。

ここはよく誤解されがちなところで、「早いうちから始めればどんどん伸びる」と考える気持ちは分かります。

ところが、実際はそう簡単なものではありません。

 

例えば、プロスポーツがそうですよね。

小さい頃から英才教育を施せば、一流のプロスポーツ選手になれる・・・かと言えば、必ずしもそうではありません。

卓球の福原さんや平野さん、ゴルフの遼くんなど、確かにそういう成功例は何人もいます。

しかし、途中で断念していった人たちが、その何倍も山のようにいるのが現実です。

 

早く始めることは「才能を見つけ、育てる」ことにはとても有効で、特にスポーツや芸術の世界では英才教育がとても有効です。

しかしそれは「もともと才能を秘めている」から見つかるわけで、「もともと才能がない子に才能を芽生えさせる」ものでは決してありません。

早く始めれば誰でも成功できる・・・という甘いものでは無いのです。

 

勉強はスポーツや芸術の世界と比べれば、まだやさしい世界です。

才能が無くても努力でかなり挽回できますからね。

そして勉強の場合は、早く始めればそれだけ「積み重ね」や「勉強量」が多くなるため、その意味では有利です。

 

しかし、早く始めることがイコール才能を磨くことになるとは限りません。

早く始めても途中で休憩すれば、うさぎとカメのように追いつかれてしまいますし、サボらなくてもある時期(主に中学後半から高校くらい)が来れば自然と追いつかれてしまうのが宿命です。

それに、早く始めても磨き方が間違っていれば、伸びるはずの才能も伸びません。

それどころか、悪い方に磨かれてしまうこともありますしね。

 

先取り学習と言えば、いわゆる「ヨコミネ式」が有名ですよね。

実際に、あそこに通っている間は劇的な変化をして、とても同じ年代の子供とは思えないような成長をします。

しかし小学校に進むと、多くの生徒たちは、いつの間にか普通の子供に逆戻りです。

 

おそらく、小学校でも同様の方式で指導すれば、その効果は先まで伸びるでしょう。

しかし、それを中学、高校、大学と伸ばしたからと言って、超有能な人間ばかりが育つ・・・ということはありません。

 

先取りすることで伸びる能力や感性はありますが、先取りすることで犠牲になる能力や感性もあります。

人にはその年代ごとに適した成長というものがあり、また個々の生徒ごとに適した成長期と成長の志向性というものがあります。

そして、短期的に見ると、劇的な効果があったとしても、長期的に見れば、先取りの効果はほとんどの生徒で次第に消えてなくなるのが普通なのです。

人を教育すると言うのは、植物を促成栽培するようにはいかないものなのですね。

 

先取り学習はただ単に先に進むだけであって、それだけで子供の根本的な力や素質を伸ばすものではありません。

もちろん、そういった素質を持った生徒なら、先取り学習をきっかけにどんどん伸びていきますから、先取り学習自体を否定するつもりは全くありませんよ。

しかし、そういった素質を持たない生徒のほうが圧倒的に多い現実も忘れてはいけません。

 

実際には、先取りで才能が花開く生徒もごく一部いますから、子供が嫌がってさえいなければ、それに賭けてみるのも良いと思います。

しかし、あくまでも「ごく一部」ですから、時間がたって効果がなくなっても「むしろそれが当たり前なんだな」と思って素直に諦めてください。

決して「子供に才能が無かった・・・」と落ち込んだり、子供を責めるようなことをしてはいけません。

むしろ大事なのは「それ以外の才能を見つける」発想のほうですから、落ち込むよりも先に、別の新たな可能性に目を向けるようにされてくださいね。

 

○ 参考:勉強の才能についてはこちら。

勉強の才能がない?

 

先取りするなら、上手にすることが不可欠

先取り学習は、それだけで「もともと無かった才能が花開く」ようなものではありません。

だからこそ、先取り学習が向いているのは「もともと頭の良い生徒や、才能のある生徒」となります。

 

そう言うと「だったら、そうじゃない生徒はどうするんだ!」という話ですが、もちろんここでは終わりません。

ここまで、少し否定的なニュアンスになってしまいましたが、決して「先取り学習」そのものを否定するつもりは無いですから、誤解しないでください。

 

先取り学習において大事なのは、先取り学習を「1つのツール」として考えるようにすることです。

そして、あくまでも生徒や状況に合わせて使っていくという前提さえあれば、もっと大いに活用していくべきものだと思います。(もちろん、これは別に先取り学習に限った話でもありません)

書籍などでもネット上でも、先取り学習には否定的な意見のほうが多いですが、あれは0か100かで考えている典型であり、自分の思い込みだけでどちらか一方に決めつける行為自体が、あまり教育的とは言えませんよね。

 

実際に、先取り学習がうまくはまると、才能や地頭に優れた生徒でなくとも、かなり大きな効果が期待できます。

 

例えば、上手に先取りをさせると、子供は自ら率先してどんどん学んでいくようになります

それで自信をつけて、その教科が好きになる子もいますし、勉強自体を得意に感じるようになる子もいます。

また、そうやって前向きに取り組むうちに、学習姿勢や学習習慣といった別の力が育つようなこともあります。

 

ただし、反対にまずいやり方で先取りさせると、理解が中途半端になって将来的には逆にできなくなります

同じくやり方を間違えると、無理にやらせることで反発して嫌いになってしまう子供も出ます

 

ですから、まず「上手にやる」というのが絶対の前提条件ですが、そこさえ大丈夫なら、先取り学習はとても有効な勉強法(指導法)の1つと言えます

 

公文式をやっているAくんは、中1ですでに微分積分を学んでいる生徒でした。

ただ、本人いわく「微分の意味は分からないけど、計算だけできる」とのことで、後に公文式をやめて1年後になると、微分の計算は全くできなくなってしまいました。

しかし、そのおかげもあってか、数学は抜群にできて、計算速度も正確さも飛び抜けて良かったです。

 

ただし、図形は苦手という落ちもあって(笑)、決して数学に関するセンス全般が良い生徒ではありませんでした。

それでも、先取り学習で得た自信と技能を上手に生かすことで、その後も「飛び抜けて」とは言わないまでも、かなり良い成績を保つことができたわけですね。

 

他にも、そろばんを習っていたBさんという、暗算がとてつもなく速い生徒がいました。

数学の点数は平均点くらいで、別に得意でも何でも無いのですが、計算に関してだけはかなりの自信を持っていました。

ところが、普段はとても計算が速いのに、なぜか小数を求める問題だけはいつも間違えるという状態で、どうもおかしいなと思って見ていたら、悲しいことに小学生の割り算の筆算でつまずいていました。

しかし、割り算の筆算は複数の加減乗算の組み合わせですから、正しいやり方をちゃんと分かるように教えてあげると、あっという間にできるようになりました。

 

ただし、こちらも別の教室に異動になってしまい、中2になった頃に再び担当したら、文字式でしっかりつまずいていたという落ちがつきます(笑)

暗算ができても、文字式の計算力には直接つながらないわけですが・・・その後、文字式の基礎からしっかりフォローしてあげることで力をつけていきます。

その結果、もともとの計算力に対する自信が、うまく文字式の計算にも結びつき「同じ計算だから文字式もできる!」と良い具合に勘違いしてくれて(笑)、少なくとも文字式に関しては抜群にできるようになり、そこから数学全体にも広げていくことができました。

 

ここでは、あえて私が先取りさせたわけではなく、すでに別のところで先取りしていた生徒を取り上げましたが、それでも「先取り学習したことをうまく生かせば、後の指導にも大いにプラスになる」ことがお分かりいただけると思います。

そしてもちろん計算力に限らず、他の教科の様々な力でも、それこそ勉強以外の他の分野でも、上手に先取りさせれば子供は順調に伸びていきます。

そして上記のように、仮につまずいたとしても、先取りで得た自信や技能を武器にして、克服もしやすくなってくるというわけですね。

 

○ 参考:算数のつまずきで数学が苦手な生徒はこちら。

中学数学の苦手を克服するための、算数の復習のコツ

 

本当に正しい先取り学習のしかた

上ではわざと「過去の先取り学習を生かす」という発想で見てきましたが、もちろんもっと大事なのは「これからの先取り学習をいかにすべきか」ですよね。

 

先取り学習において大事なのは、先取り学習を「1つのツール」として考えるようにすることだと言いました。

その上で、最も大事になるのは「先取りすべきところをして、すべきで無いところはしない」発想です。

 

ただし、それは生徒によって変わるため、全ての生徒にとって「こうするのが正しい」と言えるものはありません

もちろん、同じ生徒でも、先取り学習を取り入れたほうが良い部分もあれば、そうでない場面もありますし、周囲の状況が変われば答えが変わるようなことも普通にあります。

そして、上にも出てきたような「過去の先取り学習を生かす」という発想も、そういった個々の生徒に応じた対応をいう観点さえ忘れなければ、自然と生まれ出てくるものだと言えます。

 

ただ、話を受験や成績アップに限るなら、「地区トップ校を目指すなら・・・」「勉強がとても苦手な生徒なら・・・」という前提条件ごとに、おおよそ「この場合はこうしたほうが良い」と言うことはできます

しかし、そんなノウハウは公の場では絶対に出てきませんから、普通に探しても無駄だと思ったほうが良いでしょう(笑)

なぜなら、全員が同じ方法論をすれば、結局は差がつかなくなってしまい、元通り「もともと才能のある生徒」「もともと優秀な生徒」が上位になるという、面白くも何ともない状態に落ち着くからですね。

「世の中の子供全てを何とかしたい」と思うならそれで良いですが、「うちの子を何とかしたい」「自分が受け持っている生徒を何とかしたい」と思うなら、公の場で得られる一般的なノウハウでは意味が無いのですね。

ですから、そういったものを求める場合は、公の場では無いところを探すなど、ご自分の求めるものに合わせた情報収集のしかたをするようにしていってください。

 

さて、そういったノウハウ的な話は横に置いて、ここではもっと本質的な方法論について触れましょう。

 

先取り学習を通じて「鍛える」発想

先取り学習はあくまでも「先にやる」だけで、その生徒の地頭や才能といった「本質的な力」を鍛えるものではありません。

 

親御さんからすると、先の学年で習うことを知っている生徒を見れば、賢く感じてしまいますよね。

しかし、小学校に入る学年を全員1年間早めたからといって天才が続出するわけではありません。

もともと才能のある生徒や地頭の良い生徒が、先取り学習をすると一段と早く伸びるというだけで、そうで無い生徒が先取りしても同じことは起きません。

実は「先取り勉強」とは、地頭の良い生徒はどこまでも伸びていくものの、そうでない生徒はどこかの時点で脱落者が出るのが前提の指導法なのです。(ちょっと危険ですよね)

 

ですから、地頭や才能のある生徒はともかくとして、そうでない一般の生徒を教える時には、先取り学習だけで満足しないことが大切です。

もっと言えば、先取り学習をする過程の中で、意図的に地頭を良くしてあげたり、才能を鍛えるような指導を並行で用意してあげたりする必要があるわけですね。

そして実際に、力のある先生は当然のことのように、そういった発想で指導をするように心がけています。

 

そう、大事なのは「先取り学習」そのものではなく、先取り学習を通じて「鍛える」発想なのですね。

 

しかし、こういった指導が非常に難しいのも事実です。

 

まず、生徒の地頭や才能を伸ばそうと思うなら、教える側の先生のそれがある程度良くないといけません。

(少なくとも、生徒に口喧嘩で言い負かされているようなレベルでは話になりません)

それに、もともと地頭や才能で優れた人は、学校や塾の先生以外のもっと違う進路を進むことがほとんどです。

実際、この「地頭」や「才能」といった部分を意識して指導している先生はかなり少数派で、そもそもそういう発想すら無いのがほとんどの先生です。

もっと言えば、そもそも学校の勉強自体が、生徒の地頭や才能を鍛えることを目的としていませんから、そんな指導を塾も含めた一般の先生全てに求めるのは酷というものでしょう。

公文式などの先取り学習で、うまく伸びる子もいれば、最初伸びてもしばらくすると何でもなくなる子や、全く合わない子が出てしまう理由の1つがこれですね。

(特に公文式はパターン思考や操作法の部分は強いですが、文章問題などの「本質的な理解」の部分がかなり弱いですから、地頭を鍛えるところまではいきません)

 

そして、上に書いてきたとおり、先取り学習自体がやり手を選ぶ勉強法です。

うまくいかないとしたら、公文式がどうのと考えるよりも、その生徒に合っていないと考えるべきで、それは最早選ぶ側の責任と言えるでしょう。

実際に、公文式そのものは非常に良くできたテキストだと思いますし、「生徒に合わせて使う」のであれば、いくらでも使いようがあります。

一方で、公文式の方法論は生徒によって合う合わないが大きいですし、何よりも「通わせることになる教室の先生の力量」が問題になってきます。

ですから、公文式の全てを肯定するつもりも無ければ、全てを否定するつもりもなくて、要は「使い方次第」なのですね。

(なお、公文式もフランチャイズ形式ですから、教室や先生によって差がひどい点にはご注意を)

 

同様に、塾の先生が「学力アップのために」「能力向上のために」と言って、生徒に先取りをさせまくるようなのも、あまり意味がありません。

ただし、先のことを習っているというのは、一部の生徒にとってはそれだけでモチベーションアップにつながる面があるため、そういう意図で利用する分には大いにやってもらって良いと思います。

いずれにしても、生徒に合わせてするのが大切で、バランス感覚が問われるということですね。

 

もしも塾に頼る場合は、合う生徒には先取りをさせ、合わない生徒には普通に教えるような、「教師がきちんと選別してくれる塾」に任せることです。

それこそ、公文式や他の方式など、いくつもの方法論を複合的に扱っていて、同じ塾の中で自由に選べるようなシステムなら最高です。

さらには、勉強だけでなく、生徒の地頭を鍛えてしまうような力のある先生のいる塾ならさらに良いです。

 

もちろん、そんな塾が身近で簡単に見つかるはずもありません(笑)

ですから、保護者の立場としては「わが子に合ったやり方の塾を選び抜く」ことが大切となります。

塾の世界に総合診療科はほとんど存在しないですから、その塾の得意分野と、自分の子供に必要なものが、ぴったりと合うようなところを見つけることです。

少なくとも「お腹が痛いのに眼科に行ってしまう」のと同じような失敗をしないようにご注意くださいね。

 

一方、塾に頼るのではなく、家庭学習の中で行っていくという発想も良いと思います。

ご家庭で技術的なことを細かくするのは難しいはずですが、少なくとも生徒が好きでするぶんには、積極的に応援してあげて良いでしょう。

例えば、「英語が大好きな生徒が英検の上の級をどんどん受けている」「数学が得意で、すでに大学への数学を読んでいる」というようなのは、モチベーションや自信アップにもつながるため、どんどんやってもらって良いと思います。

もちろん、それをしたからと言って、何度もお伝えしているとおり、才能や地頭が鍛えられるわけでは無いですから、過剰に期待をしすぎることなく、それとこれとは分けて考えるようにしてください。

 

先取り学習は、天才を生み出す魔法の方法でもなければ、決して万能の方法でもありません。

学校よりも少しだけ先取りする「予習」と、学校の進度を無視してする本来の意味での「先取り学習」についても、どちらが良いかは生徒や状況によって変わってくるものです。

また、それぞれで挙げたメリット・デメリットも、ある生徒にはメリットのほうが強く出るが、別の生徒にはデメリットのほうが強く出る・・・ということが普通に起こるものです。

だからこそ、あくまでもその子に合ったものを、その時々に応じた場面で選んで使うという発想が大切なのですね。

その一方で、目の前の高校受験といったものを視野に入れた時には、必要に応じてマニュアルやノウハウ的な要素も取り入れていくというのが、現実的かつ理想的な対応と言えるでしょう。

 

いずれにしても、目の前のことに気を奪われすぎず、物事の本質を見失わないことがとても大切です。

先取り学習の本質についてはおおよそ伝わったと思いますから、ぜひ1つのツールとして上手に活用していってくださいね。

 

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○ 参考:どんなタイプの勉強法にも通じる本質はこちら。

成績を上げる中学生の勉強法の極意

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楠木塾長

かれこれ20年以上の指導経験と、1万組以上の相談対応件数を持つに至る、プロも相談するプロ。小中学生から高校生、大学生、社会人まで幅広く指導を行うが、このサイトでは中学生指導に専門を絞って独自の情報発信を続けている。また、反抗期・思春期の子育てや教育に関しても専門性が高く、保護者や指導者への助言指導なども行っている。

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