はじめまして、埼玉県で個別指導塾の講師をしています。

情けない話手探りでの指導をしており、御ブログの素晴らしい記事、興味深く拝読させて頂きました。

 

今回、意見をお伺いしたいのは数学の文章題が苦手な中学二年生の女子生徒への指導法です。(志望校は合格率80%:58の高校です)

現在、塾で用意されたテキストを使用して指導しているのですが、勉強法タイプでいう①暗記②演習を重く見ている教材(フォレスタシリーズ)です。勉強が苦手な生徒が多く在籍している塾ですし、効果があるのは確かだと思うのですが、文章問題をパターン化し、ポイントを一つ一つ覚えていくという方法は、中学二年生のそこそこのレベルの高校を目指している子に相応しいものなのだろうか、という疑問を持っています。(例えば、一次関数の文章題では距離の問題はこう、途中に休憩を挟む場合はこう、水を入れる問題はこう、といった具合に解説されていて距離の問題は解けても、新しいポイントを学ばなければ水を入れる問題には対応できないように思える構成です)

真面目な生徒で、計算等に必要な知識はしっかり身につけられているのですが、文章題になると文章題を自分の中に落とし込めていないと言うのか、文章の状況を思い描けていないように思います。(国語も担当しており、よく解けているのですが、2ステップを踏む必要がある問題の解答が甘い、中2対象の問題であれば問題ないが中3レベルの少し難しい問題になると躓く(時間がかかる)等、気になる所があります。)定期テストはどの教科も80点前後だったと思います。

 

③思考を育てる指導を目指したいのですが、今のままの指導を突き詰めて行くのとどちらが効
果的でしょうか。考える習慣をつけるため、図を書いてもらうことを考えていますが、勉強法としていかがでしょうか。また、思考を育てるとはどの程度を目指すべきでしょうか。(例えば、算数・数学の文章題には国語の読解力が必要?というテーマの中で扱っていらっしゃる問題はA.方程式を使わなくても良いし、B.方程式の考えを使っても良いし、C.機械的に速さの方程式を使う問題として見ても良いと思います(Cの解き方が現在使用しているテキストです))

 

長文になり、少しブレてしまいましたが、先生がこのような生徒を担当された場合どのように指導していくか、よろしければお考えをお聞かせ下さい。

 

また、指導を受ければ伸びるのが当たり前とありましたが(その通りだと思います)、担当して約二ヶ月半、思うように伸びない子がいます。中学3年生だと皆が頑張るので頑張りがそれなりでは、伸びにくい子もいるのでしょうか。やはり、指導法が良くないのでしょうか。率直なご意見をお聞かせ下さい。よろしくお願い致します。

 


 

今回は指導者の方からのご相談です。

生徒のために熱心な先生は大歓迎です。

 

また、専用フォームから指導法についての詳しいご相談をいただいたのはこれが初めてです。

しかもご相談の内容も先生の教育に対する真摯な気持ちが伝わる内容と、嬉しさのあまり御返事も長くなりそうですから、数回に分けて配信しますね(笑)

 

>はじめまして、埼玉県で個別指導塾の講師をしています。

こちらこそ、はじめまして。講師の立場ですと、なかなかこういった場では聞きにくいと思いますが、信頼してご相談いただきありがとうございます。

 

>今回、意見をお伺いしたいのは数学の文章題が苦手な中学二年生の女子生徒への指導法です。(志望校は合格率80%:58の高校です)

確かにそのあたりのレベルになると、文章題の克服は欠かせないですね。特に一次関数は、中2のうちに一定レベルできるようにしておくと中3単元の理解も楽です。

ちなみに保護者向けに補足しておくと、( )内は「偏差値が58の生徒が受験した場合の合格率が80%の高校」と言う意味ですね。

 

>現在、塾で用意されたテキストを使用して指導しているのですが、勉強法タイプでいう①暗記②演習を重く見ている教材(フォレスタシリーズ)です。

フォレスタの数学はかなり良い教材ですよね。個別指導塾向き教材ですが、「たとえバイト講師であろうとも一定レベルの指導が実現できる」という意味で、かなり秀逸な教材だと思います。ただ、知識の無いバイトでもできるように、システム化、マニュアル化してあるがゆえに、「教材で教える」ようになると、融通がききにくい面も出てきますよね。

 

このあといろいろ駄目出しのような内容も書くことになりそうですから、他の読者向けにも、一応ここで教材自体(あくまでも数学について)はとても良いものだと思っていることをお断りしておきます。

 

 

中学2年生の一次関数、文章題の指導について

>勉強が苦手な生徒が多く在籍している塾ですし、効果があるのは確かだと思うのですが、文章問題をパターン化し、ポイントを一つ一つ覚えていくという方法は、中学二年生のそこそこのレベルの高校を目指している子に相応しいものなのだろうか、という疑問を持っています。

その疑問は正しいと思います。苦手な生徒ほど、最初はパターン化して教えざるを得ない面はあります。しかし、パターン化して教えれば教えるほど、今度は「(1)パターン以外が解けない」「(2)パターンを覚えるという、覚えることが増える」というデメリットが出てきます。

せっかくですから、保護者の方向けの意味も込めて、少し詳しく書いていきます。

 

(1)パターン以外が解けない

こちらはまさにお察しのとおりですね。

>(例えば、一次関数の文章題では距離の問題はこう、途中に休憩を挟む場合はこう、水を入れる問題はこう、といった具合に解説されていて距離の問題は解けても、新しいポイントを学ばなければ水を入れる問題には対応できないように思える構成です)

この構成は、まさに「バイト学生でも個別指導で一定レベルの指導ができる」ことを目的として作られた形です。

パターン分けすれば、ポイントが絞れるため、生徒はつまずきにくくなります。

先生は説明することを最小限に絞れますし、「解説しなくても、模範解答を見れば分かる」生徒も一気に増えます。

仮に分からなくてつまずいても、後でパターン別に確認をすればすぐにつまずいている箇所が絞れるため、どこをやれば良いかがはっきりします。

教師側の負担を減らしつつ、しかも生徒の負担も減らすという形ですから、「バイトでも一定レベル以上の指導を実現する(=嫌な言い方をすれば、素人でも塾ができてしまう)」ことを最大の目的とした場合には、最善形の1つだと思いますね。

 

しかし、すでにお気づきのとおり、この指導法ですと「違うパターンの問題が解けない」生徒がたくさん出現します。

よく教師や塾が使う理屈として、「基本的なパターンをしっかり押さえておけば、あとはそれを応用させれば良く、少し違うパターンもできるようになる」というのがありますが、残念ながら実態はそうではありません。

これができるのは、どんな教え方でもできてしまうような「はじめからできる生徒」ばかりです(笑)

 

それもそのはず、実は「いくつかのパターンをもとに応用させる」のには、また別の力が必要だからです。

パターンと言う具体例をもとに、普遍的に通じるものを見つけ出す・・・いわば「帰納的な思考力」が必要なのですね。

ですから、この力がある生徒(=そんな生徒は、少しくらい下手な教え方でもどうせできるようになります)ならいけますが、そうで無い多くの生徒は、いくつパターンを覚えても、少しパターンが違うとすぐに間違える(どころか、すぐに諦める)ようなことになってしまいがちです。

 

そして何より、この指導法には最大の欠陥があります。

・・・少しだけ塾批判が含まれるため、次は非公開記事にしておきます(笑)

 

 

数学文章題のパターン別指導の問題点

(※この部分は非公開です)

こういったあたりを踏まえながら、残りのご相談にお答えして参りましょう。

 

 

暗記型か思考型、どちらを選ぶべきか?

>真面目な生徒で、計算等に必要な知識はしっかり身につけられているのですが、文章題になると文章題を自分の中に落とし込めていないと言うのか、文章の状況を思い描けていないように思います。

懇切丁寧なテキストを使って、パターン化で教えている限りは、文章の状況を思い描く力はつきにくいですね。

パターンを見抜く力はまさにその「文章を読んで状況を理解」した上で、「過去に解いたどの問題と近いか判断する」ことが必要です。

懇切丁寧+パターン化ですと、文章を細かく理解しなくても解き方だけが分かってしまうため、生徒によっては状況を理解することすらなく機械的に解いていることさえあります。

 

>(国語も担当しており、よく解けているのですが、2ステップを踏む必要がある問題の解答が甘い、中2対象の問題であれば問題ないが中3レベルの少し難しい問題になると躓く(時間がかかる)等、気になる所があります。)定期テストはどの教科も80点前後だったと思います。

現時点でフォレスタの国語は無かったと思いますから、そちらは違う教材でしょうかね。

どちらにせよ、ここで先生が期待されている国語力は、上の文章題にはそんなに影響しませんから、とりあえずここでは流させていただきます。

 

>③思考を育てる指導を目指したいのですが、今のままの指導を突き詰めて行くのとどちらが効果的でしょうか。

これは後の質問と関係してくるため、まとめてお答えします。

 

>考える習慣をつけるため、図を書いてもらうことを考えていますが、勉強法としていかがでしょうか。

とても良いと思います。

ただ、これは「考える習慣」と言うよりも、普通に「文章題を解くため」に必要な指導だと思います。

パターン化しないで解くためには、問題の正しい理解、すなわち図や表やグラフを利用することも欠かせませんからね。

あとは「いかにかき方を教えるか」も大事だと思います。

 

>また、思考を育てるとはどの程度を目指すべきでしょうか。

暗記型(+演習型)の指導と思考型の指導、どちらが効果的かと言う話にもつながってくるところですね。

 

塾講師がつけるべき力には、2つの視点があります。

 

1つは受験に受かる力をつけること。

もう1つは生徒の生きる力(生徒の将来に役立つ力)をつけること。

 

塾である以上、受験に受かる力は必須となります。

具体的に目指すべきは、当然その生徒が志望校合格に必要なレベルですね。

そして、こちらの視点に限ると「完全丸暗記で受かるならそれもあり」という話になりますから、暗記型の受験指導が必ずしも間違いとは言い切れません。

 

一方、生きる力(生徒の将来に役立つ力)は、「教育」という広い意味では必須なのですが、こちらは個々の教師や塾の目指すところによって大きく変わります。

生徒の将来につながる力という視点では、もちろん思考力もつけたほうが良いに決まっていますが、「それにかかる労力や時間が果たして成果に見合うのかどうか(成績が犠牲になるようならば、それはそれで問題です)」、そして「自分の力量で教えきれるのかどうか(教師の力量次第)」「それ以外につけるべき力は無いのか(数学以外で思考力をつけても良ければ、思考力以外の力を重視する選択肢もあります)」、「教師がそこまで教えたいと願うかどうか(教師の人間性や教育への想いですね)」が問われてきます。

 

基本的に、多くの生徒、保護者は「受験に受かる」「成績を上げる」ことを塾に期待しており、そこまでできれば「役目は果たした」と言えるのが今の世の現状ですよね。

そこから先を目指しても特に評価はされないですし、そもそも具体的な評価の方法すらありません。

そういった受験に直接必要なこと以外の部分を考えることで、受験に直接必要なことに関しての指導効率が落ちるとしたら、それはそれで責任放棄と言えなくもありません。

 

「受験に受かる力は絶対につける」という前提さえ満たすならば、後はもう教師や塾の「指導方針」「信念」の部分だと思いますし、そこから先は選ぶ側の生徒、保護者が求める教師や塾を選べば良いのだと思います。

あくまでも私は「受験以外の力」を志向しますが、世の中には「受験だけ。余計なことはするな」「丸暗記が一番だ」と考えるようなご家庭もあると思いますしね(笑)

とりあえず、中学生の教師や講師に限って言うならば、「高校(または他の進路)に進んでも困らない力」では無いでしょうか。

 

個人的に理想の目標としているのは、自分と同レベル、または自分以上のレベルの思考力(と言うか頭の良さ全般)です。

頭の良さと言っても幅広いため一概には言えないのですが、とりあえず「受験勉強」に限定するなら、私よりも絶対に上になってもらいたいですね。

子がいつか親を超えていかねばならないように、生徒はいつか教師を超えていくべきものだと思います。

教師はいつまでも崇められるような存在ではなく、(少なくとも勉強については)超えていかれるべき存在であり、それを後押しすることこそが教師の役目であり本分であると思っています。

 

 

中学3年生だと皆が頑張るので伸びにくい?

>長文になり、少しブレてしまいましたが、先生がこのような生徒を担当された場合どのように指導していくか、よろしければお考えをお聞かせ下さい。

私の場合は、テキストに沿って指導しないで、生徒に合わせてテキストを変えるため(笑)、塾側の縛りがある先生とは事情が異なってしまうと思いますが・・・そのレベルの生徒であれば、普通にパターン化しないで教えますね。今回の場合に関して言えば、「帰納的な思考力」からアプローチするよりは、「演繹的な思考力」からのアプローチのほうが学力がつくと思います。

「フォレスタを使う前提で、どうするか?」であれば、完全に生徒の反応を見ながらになるのですが、パターン化を全て教えた後でパターンの見抜き方を教える・・・よりは、おそらく難しいパターン化に入る前にプチ講義をし、パターン化しなくても解けることを教えた上で、その視点を意識しながらパターンごとの問題をやらせて説明すると流れで指導していくと思います。

 

>また、指導を受ければ伸びるのが当たり前とありましたが(その通りだと思います)、

共感いただいてありがとうございます。

ここを読んで、丁寧に御返事を書く気持ちが湧き出てきました(笑)

生徒はともかく、プロならば「身銭を払って学ぶべし」が社会のルールだと思っていますから、普通ならいただいた文章程度の長さでお答えするところですが、ついつい勢い余って長編になってしまいました(笑)

 

>担当して約二ヶ月半、思うように伸びない子がいます。中学3年生だと皆が頑張るので頑張りがそれなりでは、伸びにくい子もいるのでしょうか。やはり、指導法が良くないのでしょうか。率直なご意見をお聞かせ下さい。よろしくお願い致します。

これはまた別の生徒の話でしょうか?

中2ではなく、中3ということですね。

伸びにくい生徒はもちろんいますよ。偏差値や順位は相対的なものですから、誰かが伸びれば誰かが落ちますから(笑)

しかし、ここではおそらく「その原因が才能や資質なのか?」と言う意味のご質問だと思いますから、その前提でお答えします。

多くの人も言っているように、生徒の学力を決めるのは「勉強量、勉強法、やる気、才能」の4つです。

(言う人によって個数や項目は若干違いますが、本質はおおよそ同じですよね)

 

ですから、頑張りがそれなり(=勉強量が少ない)ならば、頑張っている生徒から比べれば伸びないのは当然です。

もちろん、才能や資質も無いよりあったほうが伸びますし、指導法が良ければ伸びたであろう面もあり得ます。

 

とりあえず、ここまでは一般論ですね。

これを踏まえて、率直に「私の個人的な考え方」を言うならば、たとえどんな生徒、どんな状況であっても、その生徒への授業や指導が成立しているのであれば、全ては自分の指導の責任だと考えるようにしています。

もちろん、何らかの特別な事情で授業や指導がまともに成立していないような状況は別ですが、嫌々であれ生徒が授業を受けてくれているのであれば、あとはこちらの指導力次第ですよね。

何しろ、「頑張りがそれなり」の生徒は毎年必ずいて、その生徒を「他の生徒と同じかそれ以上に頑張らせる」のもまた指導力だからです。

 

それに、そこで「生徒が悪い」「親が悪い」などとしてしまうと、己の成長も止まってしまいます。

生徒に「勉強だけでなく、他の様々な面でも学び成長してほしい」と要求するからには、自分も絶えず成長して行かないと説得力がありません。

 

かなり長くなりましたが、ここで終わりです。

これでもわりとポイントを絞って書いたつもりですが・・・やはり指導のことになるとつい長くなりますね(笑)

伝わりにくい点などは、またお尋ねくださいませ。

 

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楠木塾長

楠木塾長

かれこれ20年以上の指導経験と、1万組以上の相談対応件数を持つに至る、プロも相談するプロ。小中学生から高校生、大学生、社会人まで幅広く指導を行うが、このサイトでは中学生指導に専門を絞って独自の情報発信を続けている。また、反抗期・思春期の子育てや教育に関しても専門性が高く、保護者や指導者への助言指導なども行っている。

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