教育相談などで、塾での成績を判断する際に、「塾では偏差値が上がっているので・・・」と言う言葉をよく耳にします。

「塾の指導に不満があっても、偏差値が上がっているからそのまま続けよう・・・」とお考えの方も、きっと多いことでしょう。

 

しかし、前にも述べたように、塾内のテストの偏差値については、全くあてにはならないと思ってください。

そもそもの母体が違う上に、塾によっては数字を操作している場合もありますから、問題があって辞めるべき塾ほど、偏差値的には「問題が無い状態」になってしまうのですね(苦笑)

 

ところで、塾のテストだけでなく、学校のテストに置いても、偏差値には注意が必要です。

今回は、得点、偏差値、順位などの関連性について見ていきましょう。

 

○ 参考:塾選びについてはこちらも。

学力別に見た中学生の塾選び

 

得点、偏差値、順位の関連性

まずは、「得点」が全く変わらない生徒についてです。

中1は1学期から徐々にテストが難しくなっていくことは、何度も話してきましたね?

そうすると生徒全体の得点は下がっていきますから、点数が同じで維持しているだけでも、順位や偏差値(≒平均との差)が上がっていくのは自然なことです。

  • 生徒の得点  1学期360 2学期360 3学期360
  • 学年の平均  1学期400 2学期370 3学期350
  • 平均との差  1学期-40 2学期-10 3学期+10

得点が同じでも、平均がみるみる下がっていけば、その差は伸びていきます。

当然、平均との差を表す尺度である「偏差値」もみるみる上がっていくことになります。

上の例で言うと、1学期には50未満だった偏差値が、3学期には同じ点数のままで、偏差値50以上になります。

(例がやや大げさなのは、分かりやすさのためです。実際に中1の1学期は、平均で400点を越すような甘いテストもありますけれどね)

 

このように、点数が変わらないのに、偏差値だけが変わることはいくらでも起こります。

だから、点数でなく偏差値を見ることが、一般に重視されるのですね。

 

ところが、実を言うと「偏差値」もあまりあてにはなりません。

少なくとも、私はあてにはしていません。

 

今の時代は学力の二極化がますます顕著になってきています。

そうすると、地域や学校によっては下位層だけがどんどん落ち込んでいき、それで平均点が大きく下がってしまうケースもあります。

  • 1学期:A100,B98,C95,D88,E70,F65 (平均86)
  • 2学期:A100,B98,C95,D88,E40,F29 (平均75)

このように、生徒の順位が全く変わらなくても、平均点だけが下がることはあり得ます。

そして、平均点との差≒偏差値ですから、この場合、上の4人の生徒は、得点も順位も同じなのに、偏差値だけは上昇します。

(もちろん、実際には上位の生徒にも得点変動はありますが、下位の生徒ほど大きくないのは感覚的にお分かりかと思います)

これを見ると、偏差値が上がっても、順位が変わるとは限らないことが分かります。

 

そして忘れてはならないのは、実際の入試は「偏差値」でなく「順位」で決まることです。

入試は、どれだけ高い偏差値を叩き出そうと、「定員」に入らなければ不合格です。

定員が200人なら、全受験者の中で上から200番に入らなければ、何点とろうと、偏差値がいくらだろうと、不合格になります。

偏差値は自分の位置を知るには役立ちますが、「入試の合否」を決める段階では参考にならないのですね。

 

そして、近年問題になっている「学力の二極化」の中では、この「順位」が変わらないのに、「偏差値」は上がっていく現象が起こりやすいです。

 

○ 参考:塾選びについてはこちらも。

成績の上がらない塾を変えるかどうか迷う時の判断基準

 

偏差値だけが上がっても意味が無い

例えば、こんなクラスがあったとしましょう。

  • 何もしなくても、いつも100点をとってしまうAさん。
  • それに負けじと頑張る努力家のBさん。
  • あまり勉強してないのに点がとれてしまったCさん。
  • 力はあるのに慣れない初のテストでつまずいたDさん。
  • 勉強が苦手と言ってはばからないEさん。
  • 小学校の内容も分からないFさん。

6人は1学期に、こんな点数をとりました。

A100,B95,C85,D80,E63,F45 (平均78)

中1の1学期のテストは簡単ですから、このくらいとれても不思議はありません。

これが2学期には、こうなったとします。

2学期:A100,B95,C78,D85,E42,F20 (平均70)

AさんやBさんのようなできる生徒は、2学期でも変わらずできるものです。

Cさんは調子に乗って勉強せず、下がってしまいました。

おそらく3学期はもっと下がるでしょう(笑)

Dさんのように頑張って得点をアップさせる生徒も中にはいます。

しかし、下位の生徒ほど、学期が進めば進むほど得点は低下していきます。

特に英語や数学は、苦手意識が強まり、積み残しが増え、どんどんどんどんできなくなっていきます。

 

このとき、平均点は下がっていますから、AさんやBさんの偏差値は上昇します。

しかし、得点も順位も1学期と変わりません。

一方、Cさんを見ると、順位も得点も下がっているのに、平均からの差は「+1」になっています。

そして、おそらく今後もこのクラスにいる限りは順位も偏差値も大して変わらないでしょう。

 

ちなみに、定期テストは毎回狭い範囲で行われる、本当の学力とは言えない力を測るテストです。

Cさんのような生徒は、こういう狭い環境で安心してしまうために、統一テストや模試などで、驚きの結果が出て悩む・・・ということが起こりがちなのですね。

これは多くの皆様が経験されているとおりです。

学力の二極化については、実際に近年の学力分布等を見ると、昔は山のような形をしていたのに、今はふたこぶラクダのような形になってきています。

昔よりも今のほうがふたこぶになっていますし、中1よりも中3のほうがふたこぶがはっきりします。

 

本当の実力は小学校の時点ですでに二極化しているものですが、最初のうちはテストが簡単ですから、いったんごまかされてしまいます。

しかし、上位の生徒はもう上がらない一方で、下位の生徒は下がる余地がたくさんありますよね。

そういった事情もあって、後になればなるほど得点や偏差値面での二極化がよりはっきりと表れやすいのです。

 

さらに、今後学習内容が難化すれば、さらにふたこぶ化は進むでしょう。

そして、ふたこぶ化が進むほど、偏差値は意味を持たないものになっていきますし、平均点も参考にする価値のない指標になっていくのですね。

(完全にふたこぶ化すると、平均点近くの生徒数が一番少ないという、不思議な状態にもなります)

 

こうして見てくるとお分かりのように、得点、平均点、偏差値、順位は、どれも、「それだけ」では指標としては役に立たないのですね。

それでは、親はいったい何を見れば良いのでしょう?

 

○ 参考:塾選びについてはこちらも。

塾の保護者面談で話す内容

 

偏差値ではない、親が見るべきもの

生徒がつけるべき「学力」には、いろいろなものがあります。

細かく言い出すとキリがありませんから、大まかなものだけ挙げてみましょう。

  • 「定期テストはできるのか」
  • 「実力テストはできるのか」
  • 「入試本番ではできるのか」
  • 「高校で通用する力はついているのか」
  • 「本当の学力や賢さは身についているのか」

目の前の定期テストを重視する人と、高校進学後の将来の学力を重視する人とでは、見るものが異なって当然です。

似たような「定期テストを重視する人」と「通知表アップを重視する人」でさえ、見るべき点は変わってきます。

 

ですから、まずは親でも生徒でも、「自分が何を重視したいのか、すべきなのか」をはっきりさせることが第一歩です。

例えば、定期テストがボロボロの生徒に「高校に通用する勉強を!」と言っても難しいですよね。

入試が目前の生徒に学校内の偏差値を分析させることも意味がありません。目指すところによって見るべき指標も変わってくるのですね。

 

簡単なことのようですが、意外とこの根本がはっきりしないままに、

定期テストが悪ければ「テスト前くらいもっと勉強しなさい!」と言い、

実力テストが悪ければ「普段の勉強が足りないのよ!」と言い、

入試になれば「とにかく受かれば!」と願い、

そして高校に進んで積み残しに気づくと「中学の勉強のやり方が悪かったのよ」などと言う、

そんなご家庭は多いはずです。

(もちろん、せっかく親が違うことを言っても、自分の意思でそうしてきた生徒も多いでしょう)

 

なお、上記のどれが大切で、どれが不必要というものではありません。

ここは親御さんやご家庭の価値観、考え方にもよるでしょうし、正解が1つに決まるものでもありません。

そもそも「テストのための勉強などできなくても良い」と考える親御さんや先生だっているはずで、それもそれで1つの価値観です。

さらに、同じ学校や塾にいる先生でも、各先生によってどれを重視するかが異なります。

教えるほうの人間が、それぞれ違うものを重視して教えているのですから、生徒、保護者が混乱するのもしかたないでしょう。

 

そういう意味で、まずは「自分に合ったものを選ぶ」ことが大切です。

大抵の場合、学校は選べませんから、塾や先生を選ぶのですね。

分かりやすい例で言うなら、入試が心配なのに定期テスト対策に必死の塾を選ぶのはまずいですし、将来に備えた学力や賢さをつけたいのに受験対策ばかりの進学塾を選ぶのも失敗する可能性が高いです。

また、同じ塾であっても、合う先生と合わない先生がいるのは当然ですから、それを選び分けることも大切です。

 

そして、「本当の学力」をつけようと思ったら、そういったところまで見て指導していかなければなりません。

定期テスト、実力テスト、模試、通知表はもちろん、日頃の勉強法や学力状況、授業の受け方やノートの取り方、普段使っている教材名やそのやり方と進行状況など、様々な角度から見なければなりません。

「現状の学力」を測るだけでも、生徒をしばらく教えてみるか、生徒の過去のテストの答案をまとめて見るなどしないと、より正確な学力の診断はできないのですね。

 

ですから、少なくとも先生や塾は、こういったことを授業や面談を通して生徒から情報収集しなければなりません。

そうでなければ、本当の意味での指導はできないはずです。

 

しかし、残念なことに、得点や偏差値しか見ないで教えている底の浅い塾や先生も大勢います。

今では、塾がテスト結果や通知表を集めるのは当たり前ですが、集めて終わるだけの塾や、宣伝に使うだけが目的の塾も多く、しっかりと分析して、日頃の指導に活用してくれているケースはかなり少ないです。

逆に、こういった情報が頭に入っていなければ質の高い指導はできませんから、そこを突いた質問をしてみれば、その先生の力量や本気度を測ることも可能です。

きちんとした先生なら、上に書いたようなことは頭に入った状態で教えるのが、マナーというか最低条件のことですからね。

 

もちろん、生徒が自分からそういう先生を選ぶべきですが、中学生でそこまでしっかりしている人はなかなかいません。

特に、成績が悪くて苦しんでいる生徒ほど、難しいと言えるでしょう。

ですから、こういう部分をこそ親が補ってあげるべきとも言えます。

 

「勉強しなさい」と、誰でも言えることを毎日のように口にするだけでなく、こういった指導をしてくれる先生を探すなり、今教わっている先生にそれなりの指導を要求するなりしていくべきなのですね。

最低でも、上に書いたレベルのことさえしてくれない塾や先生に、「高いお金を払い、信頼して預ける」ようなことをしていてはいけません。

単なる「盲信」が詐欺被害を大きくするのと同じで、きちんと信頼に足る相手をこそ信頼して任せなければならないのですね。

 

ただし、学校の先生にまで同じ事を要求しないようにしましょう。

学校の先生全てに高い指導力は期待するのは無謀ですし、今の学校はやるべきことが多すぎて、そこまで見きれません。

中には素晴らしい先生もいますが、平均的なことを考えれば「そういう先生に当たったらラッキー」と思っておくくらいが現実的です。

一方で、塾や家庭教師は個別に高いお金を払っているのですから、低質なところにはどんどん要求して良いと思います。

 

ただし、全ての塾が「本当の学力」を目指しているわけではなく、定期テストさえとれれば良いというような指導を掲げている塾もたくさんあります。

そして、「塾の目指す学力」と、「生徒・保護者の目指す学力」がずれている時、例えば、自立を志向する生徒を押しつけの指導をする塾に入れるなど、ここの部分のミスマッチほど生徒がかわいそうなことはありません。

  • 「生徒・保護者が目指す学力と、塾が目指す学力は一致するのか」
  • 「塾は目指す学力のために、必要最低限の指導ができているのか」

この2つが揃うことが、後で「塾に通わせて良かった」と思えるための絶対条件なのですね。

こういったあたりを皆様注意なさってください。

 

○ 参考:塾選びについてはこちらも。

中学生になったらすぐに塾に入ったほうがよい?

成績が上がる塾とは?

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楠木塾長

かれこれ20年以上の指導経験と、1万組以上の相談対応件数を持つに至る、プロも相談するプロ。小中学生から高校生、大学生、社会人まで幅広く指導を行うが、このサイトでは中学生指導に専門を絞って独自の情報発信を続けている。また、反抗期・思春期の子育てや教育に関しても専門性が高く、保護者や指導者への助言指導なども行っている。

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